NZ視察報告           片岡 靖志

期間:08年3月10日~3月18日
日程:10日 出国(成田→オークランド)
   11日 ノラーナ・リリー(Norana Lilies)社訪問
   12日 アイランドバルブス(Island Bulbs)社訪問
   13日 メールオーダー用球根花卉生産者、チューリップ切花生産者訪問
   14日 ユリ・アイリス切花生産者訪問
   15日 バンザンテンNZ支社、バッカー(Bakker)社訪問
   16日 ハークマンNZ支社訪問
   17日 サウザンフローラ(Southern Flora)社訪問
   18日 帰国(オークランド→成田)

11日~15日にかけてはP.F.Oningsのアンドレ・ルッテ(Andre Rutte)氏と共に行動

1.ニュージーランドの地理・気候等の概要

ニュージーランドは、北部地域は亜熱帯、南部地域は温帯の気候区分に属している。今回訪問した各会社は、北島北部・中南部、南島北部・南部に所在地をそれぞれ持っており(各社所在地は次頁参照)、それらの地域の主要都市における気候の大雑把な概況は以下のようである。

※平均気温は、最高気温/最低気温で表示。
平均気温だけに単純に着目したら、北から南に行くにつれて少しずつ低くなっていくことがわかる。
今回訪問した時期、3月中旬は本来なら秋の始まりであるが、おそらく全日程において日中は20℃を超え、時には25℃以上になったときもあった。圃場周りをしていた際は半袖を着用しており、地域的に太陽光線が強いということもあるのだろうが、露出されていた腕半分が少し日焼けをしてしまう程であった。

【訪問各社所在地図】

2.各社訪問

①ノラーナ・リリー(Norana Lilies)社

所在地:オークランド(ニュージーランド最大の都市)
現地スタッフ:ポール・ウェッセル氏
サウザンフローラ社長のポール・ウェッセル氏によるユリ切花生産会社。当然のことながら、球根の仕入先はサウザンフローラ、つまりポール氏自身で、余剰球根の効果的な処理にもやはり一役買っているという。なお、サウザンフローラとは形式上分離独立している。オリエンタル系を中心に、アジアティック、LAも数種栽培しているようである。
①'ニュージーランドのユリ切花事情について
ニュージーランドにも市場の仕組みが存在し、オークランド、ウェリントンそしてクライストチャーチの主要3都市に大きな市場が設けてある。オリエンタルに関しては、日本に似て白とピンクの需要が大きいようで、その中でもカサブランカが依然としてユリの代表格、といった雰囲気があるようだ。事実、今回訪れた期間の市況を聞かせてもらったら、オークランドの市場で、中値でカサブランカ一本当り2.5$の値がついていたようである(この時期の値段としては、かなり良いとポール氏も言っていた)。アジアティックやLA等に関しては、黄色やオレンジといったオリエンタルにはない花色に需要が多いようである。
参考までに、3月17日におけるオークランドでの市場の市況は以下のようであった。

また、切花のニュージーランド国内の消費を考えた際、人口400万弱の国なので、当然のことながら需要は限られてくる。そのため、市場は供給過多にはとても敏感に価格下落として反応するようである。

②アイランドバルブス(Island Bulbs)社

所在地:ネイピア(オークランドの南東約400kmに位置する、国際港をもつ都市)
現地スタッフ:ゼイン・アダムス氏
(5人もの子持ちのお父さんで、なかなかにすごいニュージーランド訛りの英語を喋る。日園としては、イエローウィーンを購入しているだけにも関わらず、非常に親切に圃場を案内してくれ、いろいろな情報を進んで提供してくれたりと、とても印象のいい人であった。そして、午前10時頃から午後4時頃まで僕とアンドレ氏を案内してくれていた間、ペットボトル1本のスポーツドリンクしか口にしておらず、なかなかに頑強(空腹知らず?)な体の持ち主であった。)
栽培規模:約30ha(Northworpe圃場24ha、Campbell圃場6ha)
【栽培品種】
アカプルコ、イエローウィーン、クリスタルアイ、コロラド、コンカドール、シベリア、ソルボンヌ、ティバー、マザーズチョイス、マルコポーロ、etc
テュキテュキ川河口付近に広がるこのネイピア周辺は、一見したところ砂質土の土地が多いような印象であったが、圃場の大部分を構えるNorthworpeという地域が位置する内陸のほうへ入っていくと、ただの砂質土よりも重い、肥沃な土壌が広がっていた。圃場の土も同様で、排水性も良好なようで有機質にも富んでいるという。カリウムに関しては、少し土壌中に不足しているようであるが、肥料で十分補えるという。
球根生産者は、各品種におけるロイヤルティの支払いを面積で勘定することになるので、植栽密度を上げれば同じ支払いで生産量を増やすことが可能であるが、密度を上げると当然ながらユリ単体当たりが得られる光の量は減少するので、生産者にはそのバランスを上手くとることが要求されている。
圃場は先述したNorthworpeと、もう1ヶ所Campbellという計2ヶ所に位置している。Northworpeの圃場は大きく3つの区画に分かれており、そのうち2つはほぼ同じ性質の土壌を有している。そして、残りの1つは少しだけ粘度の高い土壌となっている。
販売用球根の試し掘りを行ってみると、重く、硬く、リン片の間に隙間のない充実した球根を多く確認することが出来た。ニュージーランドの北島はかなり温暖な気候を有しているため、球根の生育・肥大もかなり早いようであった。中には、肥大がむしろ少し早すぎると思われるものもあった。肥大の早さをどう上手く調整し、目標サイズの数量を確保するか、という問題がもしかしたら生じてくるかもしれない。

③バンザンテン社ニュージーランド支店

所在地:ラカイア(クライストチャーチから南西へ40km程度)
現地スタッフ:エド・スヒルダー氏
(名前からもわかる通り、オランダ人のマネージャーさんである。「Shed Manager」という役職が示すとおり、栽培計画、収穫後の加工及び配分等の作業をいかに効率化し、滞りなく進行させていくかという点にとても神経を使っていることがうかがい知れた。)
栽培規模:約100ha(うち60haが販売球用)(レムコ氏30ha、ラプトレイ氏35ha)
※今回は日程の都合で、先の2つの圃場から離れた、LAなどが栽培されている圃場を視察することは出来なかった。
【栽培品種】
アクティバ、ヴィヴィアナ、ウィレケ・アルベルティ、カサブランカ、コンスタンタ、サンナ、シェイラ、ジャスティナ、ソルボンヌ、ティアラ、マルコポーロ、リアルト、カプレッと、ダズル、ロイヤル・トリニティ、etc
ラカイア川流域に広がる肥沃な土地に圃場を構えている。今回視察することが出来た3つの圃場は何れもネイピアのそれと似たような性質の土壌を有しており、適度に砂を含み、排水性に優れて養分に富んだものであった。ただ、回った圃場の3つのうち、1つ目は非常に僅かながら排水性が悪く(少し粘度が高かったであろうか)、3つ目は圃場全体がかなり乾燥しているようにも見受けられた。
話によると、ラカイアを含めたクライストチャーチ周辺は、他の地域と比較しても光密度が少し高いようである。先述したような球根も僅かながらあったにせよ、順調に肥大し、充実した球根を確認することが出来た。

④バッカー社

所在地:ラカイア
現地スタッフ:アディン氏
(一見少しぶっきらぼうな雰囲気があるが、話をすると実はとても気さくという現地ニュージーランドのスタッフ。確かな技術・経験を持っているなという強い印象を受けた。)
栽培規模:約36~37ha
【栽培品種】
カサブランカ、シベリア、ソルボンヌ、リアルト、ル・レーヴ、ロビーナ、etc
バンザンテン社から5分と離れないところに、社屋・倉庫を構えており、圃場もそれらのすぐ近くに位置している。以前は、南島のラカイアよりさらに南の地域で栽培を試みたようだが、そこでの栽培をやめて数年前から今のラカイアで開始した(アディン氏曰く、ニュージーランドの中ではこのラカイア周辺がユリ栽培に最も適しているという)。
ここでの球根の生育・肥大も良好のようで、ずっしりとした硬い球根を確認することが出来た。また、生育の早さの調整にとても気を使っており、品種別に肥大の速度に合わせて地上部を長短に切断しており、すでに地上部が全て切り取られたものもあった。この会社の圃場の見た目が一番きれいだったと思う。

⑤ハークマン社ニュージーランド支店

所在地:エデンダール(南島南端の都市インヴァーカーギルより北へ20kmの村)
現地スタッフ:ヨハン・グロート氏
栽培面積:30ha
【栽培品種】
アプリコットパーロット、アンジェリケ、イエローフライト、イルデフランス、キースネリス、クリスマスドリーム、バルセロナ、バレリーナ、フレミングパーロット、ホワイトドリーム、モンテカルロ、リーンファンダマーク、etc
     計28品種
1月8日~2月21日にかけて掘り取りが行われ、それ以後1~2ヶ月間経過した後の球根を見ることが出来たが、今年の作況はかなり良かったようである。殆どの品種で、フザリウム等は殆ど皆無と言っていいほど見当たらず、球根の見てくれにおいても、皮切れの少ない充実したものが殆どという印象であった。ただ、唯一ホワイトドリームに関しては、フザリウムに侵されているものが多かった(それでも去年よりはましだという)。それと、本来は晩生で、掘り取りの時期も遅くなるというパープルフラッグを、どの品種よりも早い1月8日に掘り取ったようである。花摘みが終わった後、地上部が枯死する速度が何故かとても早かったという。ただ、掘り上がって、20℃の部屋に管理されていたのを見る限りでは、他の品種と同様に皮切れの少ない良好な状態に見えた。
ノーズの大きさも幾つかの品種で確認でき、その殆どが1cm以上で、肉眼でもステージGに達しているのが簡単に判別できるものもあった。
何にせよ、球根の品質は高いものに感じられた。
なお、次のシーズンは、Haakman などの品種を少しだけ導入し、計30品種程度を予定しているという。

⑥サウザンフローラ社

所在地:ゴア(インヴァーカーギルより北に40km、ハークマン社NZ支店からは北に20km)
現地スタッフ:ポール・ウェッセル氏
(オランダ人。20年ほど前からニュージーランドに移ってきたという。正直に言うと、この人も最初は少しだけぶっきらぼうな雰囲気があり、打ち解けるようになるまでは少々とっつきにくかった。彼の話から、球根栽培に対する姿勢、または知識や経験の深さといったものがひしひしと感じられた。)
栽培面積:約40ha
【栽培品種】
アカプルコ、アケミ、カリビアンパール、カサブランカ、コンカドール、シベリア、シンプロン、ソルボンヌ、マジックパール、マルコポーロ、etc
南島南部地域のこの年の夏は、それほど降雨が多くなかったという(ハークマン社の社屋・圃場等も近くにあるので同様)。それに呼応して、乾燥している時期も多かったようなので、平年よりもかなり多く水くれを行っているようである。
生育状況は比較的良好のようで、ここでもずっしりとした中身の詰まった球根を確認することが出来た。
去年から今年にかけて、新規の倉庫の建設を行った。それにより、掘り取り後の加工・調整のかなりの効率化が図られるものと思われる。

3.総評

今回初めてニュージーランドを訪れたが、オランダにおける球根栽培と比べても何ら遜色はないと感じた。設備や機械等もオランダと同様のものを使用しており、生産者はみな、高い技術・経験・知識を備えていると感じた。
訪れた各会社で目にすることが出来た球根は、大部分は既に前述している通り順調に生育していた。
今回は、北島の北端から徐々に南島の南端まで南下しいてくという経路をたどることになったが、明らかな気候の変化が存在していることを身をもって体感することが出来た。この気候の差は当然のことながら、球根の品質・特性に大きく影響を及ぼすと考えられるので、地域ごとの特性というものを把握することがやはり重要になってくるであろう。それと、生産者数の少なさからくる出荷数の不安定さを少しでも改善してもらうためには、生産者側にいかに球根の肥大・生育速度を調節してもらうかに、やはり懸かってくるのであろう。
また、これは球根生産業者に限ったことではないらしいが、近年ニュージーランドから海外へ、特にオーストラリアへの移住者が急激に増えているという。それが影響しているのかもしれないが、人材確保の難しさや人件費の高騰が少しずつ表面化してきているようである。オランダでも球根生産業者にとって悩みの種になっている人件費の高騰が、ここニュージーランドの球根生産業にも大きな影響を及ぼすことになっていくだろうと思われる。

写真で見るニュージーランドの球根

アイランドバブルス(Island Bulbs)社

Conca Do’r (10-12cm)








Marco Polo (8-10cm)








Siberia (10-12cm)








バンザンテン(Vanzanten)社

Aktiva (8-10cm)









Casa Blanca (8-10cm)






Le Reve (10-12cm)














Marco Polo (8-10cm)










Rialto (8-10cm)












Siberia (10-12cm)






Sorbonne (8-10cm)








Viviana (10-12cm)


















バッカー(Bakker)社










サウザンフローラ(Southern Flora)社




Casa Blanca (10+cm)




Le Reve (8-10cm)








Marco Polo (8-10cm)