NZ視察報告           片岡 靖志

期間:09年3月12日~3月19日
※13日~17日にかけてはオニングス社のアンドレ・ルッテ氏と共に行動

 今年の3月中旬は、昨年訪れた同時期よりも基本的に気温は低く、本来の秋の始まりといった気候でした。ただ、アイランドバルブス社の圃場を視察していて、日が照った際にはおそらく25℃近くまで上昇していたのではないかと思います。それ以外は、(現地の人が言うには)大体は本来のニュージーランドの3月中旬といった雰囲気の天気で、滞在中の1週間は推移したのではないかと思います。

 今回も球根生産会社ごとに、今年の栽培状況や品種構成、そしてこれからへの展望などを中心に報告したいと思います。

【訪問各社所在地図】

2.各社訪問

①アイランドバルブス(Island Bulbs)社

所在地:ネイピア(オークランドの南東約400kmに位置する、国際港をもつ都市)
現地スタッフ:ゼイン・アダムス(Zane Adams)氏
栽培品種:アカプルコ、カリビアン、コロラド、コルバラ、コンカドール、サンタンダー、シェイラ、シベリア、ソルボンヌ、ソレド、ティバー、ベラドンナ、リアルト、etc

 今年も圃場はネイピア郊外のNorthworpeという場所に構えており、主な販売球用の圃場は去年の圃場のすぐ隣に位置しています。去年の圃場に比べてほんの少しだけ重たい土質で、保水性も少し高いようです。
 今年に入ってから1月中旬に最高気温35℃程度の日が1週間くらいあったようで、アンドレ氏はその高温による被害を心配していたようですが、特にそれによる影響は見られませんでした。夜温は高湿度ながらもそれなり下がったようですし、灌水等の管理がうまくなされたのでしょう。
 また、今年は霜による目立った被害もないようです。リン片繁殖用圃場の脇にヒーターを備えた小型風車の設置を行い、温風を圃場全体に巡回させることによる霜対策は、実際にかなり効果があるようです。

 品種構成は、オランダの切花生産者用に向けた契約栽培を除けば、日本には馴染みの薄い品種も幾つかあるようですが、去年に比べて若干だけ絞り込まれた感じはします。ただ、販売球用カリビアンの1haには少し驚きました。
 試し掘りをした球根の見てくれ、質感については去年と同様に非常によく、硬く締まったずっしりとした球根がほとんどでした。

 1年ぶりにゼイン氏と再会しましたが、お子さんがさらに1人増え現在はなんと6人の子持ちになったそうです。しかもまだ若干31歳。たくさんの子供のために働くパパとして心強い感じがしました。その上この球根生産の仕事を非常に楽しみながらやっているという印象を、この人からは非常に強く受けます。
 また従業員も現在は3人に増え、その内1人に対しては「いろいろな仕事を任せられるような、良い従業員だよ」とゼイン氏が言うように、頼りにできる従業員が今はいるようです。

②バッカー社

所在地:ラカイア(クライストチャーチから南西へ40km程度)
現地スタッフ:アディン(Adin)氏
栽培品種:アクティバ、カルーソ、コンカドール、シェイラ、シベリア、ソルボンヌ、タイムアウト、ベラドンナ、リアルト、ル・レーヴ、ロビーナ、etc

 去年とほぼ変わらない土質の圃場で今年も栽培を行っています。今シーズンは天候に色々と悩まされたようで、11月中旬に霜による被害を受け、その後雹が降り、1月中旬にもう1回雹が降ったそうです。それにより圃場のかなりの部分で上部の葉っぱが傷を受け、被害を受けた個所を取り除くため、摘雷後にいつもより短く刈り込んだようです。アディン氏が言うには、「去年の同時期と比べて生育状況は1週間くらい遅れている」ようですが、去年は既に地上部が全部刈り込まれていた品種も幾つかあり、肥大速度を抑えようとしていたくらいなので、球根の肥大の度合いには最終的には大きな問題にならないと思われます。

 バッカー社の品種構成で、去年といちばん大きく変わった点は(日本にとって)、カサブランカが無くなったということでしょう。それ以外については、フレッターの新品種をいくつか導入したようで、今年はカルーソやベラドンナ、来年からはサンタンダーなども出荷可能になるようです。
 各品種、ロット別の細かい状況や球根そのものに目をやると、特に目立った問題はなく、球根の生育状況についても取り立ててわかるほどの遅れというものはありませんでした。
 また、ロビーナに関して、この品種には常について回る、葉が黒くなり萎縮する通称メリクロン病については圃場ではバイラスと同様に扱い、生育の初期の段階で抜き取りを行っているようです。

③バンザンテン社ニュージーランド支店

所在地:ラカイア
現地スタッフ:ナイジェル・ヤング氏、エド・スヒルダー氏
レムコ氏及びルプトレイ氏と契約栽培
栽培品種:アクティバ、ヴィヴィアナ、ウィレケ・アルベルティ、カサブランカ、コブラ、コンカドール、コンスタンタ、サンナ、シェイラ、ジャスティナ、シンプロン、ティアラ、トップホワイト、フランシア、マルコポーロ、リアルト、ル・レーヴ、ロディーナ
トライアンファーター、ホワイトトライアンフ
カプレット、ダズル、ビゼー、ベンフィカ、ボゴタ、ロイヤル・トリニティ、etc

 こちらもラカイアに位置しているため(バッカー社から車で2、3分)、当然のことながらバッカー社とほぼ同じ天候の変化、それによる影響を受けています。同様に、多くの部分で上部の葉っぱが傷を受け、被害を受けた個所を取り除くため、背丈はかなり短くなっていました。
 試し掘りをして確認した球根については、大体の品種で問題はなさそうでした。そして去年と比較すると、圃場間の土質や土壌の乾燥の度合いが小さくなったような気がします。

 今回圃場を案内してくれたのは去年と同じくエド氏で、去年の報告書にも記しましたが、なんだかちょっと頼りなさそうな(私がこんなとことを言えたものではないですが)印象を持っていました。しかし今回1年ぶりに会ってみると、去年より自信たっぷりというか、とても堂々とした雰囲気で説明や案内をしてくれました。新しいマネージャーのナイジェル氏に会えなかったのが残念でした。

④サウザンフローラ社

所在地:ゴア(インヴァーカーギルより北に40km、ハークマン社NZ支店からは北に20km)
現地スタッフ:ポール・ウェッセル氏
栽培品種:アカプルコ、アケミ、カリビアンパール、カサブランカ、コンカドール、シベリア、シンプロン、ソルボンヌ、バイカルパール、マルコポーロ
トロピックダイアモンド、パーティダイアモンド、etc

 サウザンフローラの圃場は事務所・倉庫が位置するゴアという町から北へ40km程度さらに上った所にあり、平均気温はゴアよりも僅かだけ高い場所です。去年とほぼ同じ区域に今年も圃場を構えており、土も去年と変わらず、肥沃だけれども重くやや粘土質という土壌でした。視察を行った日はあいにくの雨で、正に全身泥まみれでした。このような圃場の土では、掘り取り期の天候が他の生産地よりもさらに重要になってくるなと身を持って実感しました。粘る土を洗浄する手間=時間の経過、に直結してくるからです。

 時間が限られていたため品種をいくつかに絞って試し掘りを行い、球根を確認しましたが、見てくれ及び肥大の度合いほとんど問題はなさそうでした。LAの畝でぽつぽつとボト枯れらしきものが見えましたが、心配するほどでもありませんでした。カサブランカも球根自体は良いものに見えました。
 09年産からデヨング社のLA2品種(トロピックダイアモンド、パーティダイアモンド)を出荷し始め、10年産から4品種に増える見込みです(前述2品種に加え、イエローダイアモンド、ネモ)。

⑤ハークマン社ニュージーランド支店

所在地:エデンダール(南島南端の都市インヴァーカーギルより北へ20kmの村)
現地スタッフ:ルール・オプ・デン・ケルダー氏
(オランダ人。去年案内してくれたヨハン・グロート氏はオランダに戻ったようで、彼が去った後から新しくマネージャーに就いたようです。十分な球根の知識、球根生産のノウハウを持っているという印象でした。)
栽培品種:アニースキルダー、アプリコットパーロット、イエローフライト、イルデフランス、オレンジプリンセス、カナスタ、キースネリス、クリスマスドリーム、ハウステンボス、パープルフラッグ、バルセロナ、バレリーナ、フレミングパーロット、ホワイトドリーム、ミストレス、モンテカルロ、リーンファンダマーク、etc

 1月第2週~2月第2週にかけて掘り取りが行われ、その後1~2ヶ月間経過し保管してある球根を見ることが出来きました。今年の作況は、去年のかなり良好な作況に比べると少しばかり下回り、皮切れも多いように見えました(あくまで去年と比較して)。やはりホワイトドリームについてはフザリウム多少やられてはいましたが、他の品種に関してはフザの心配は無いようでした。
 この南島南部の天候の移り変わりについては、先述したサウザンフローラが位置するゴアと大体同様だったようですが、春はこちらの方がさらに寒かったようです。チューリップの開花期になんと雪が降り(!)、雪の上でチューリップが咲いているという珍妙な光景だったようです。
 その涼しい夏の影響があってか、ステージGに向けての各品種の花芽形成は去年の同時期よりも1~2週間程度遅れているようです。なお、花芽形成の進行状況は、ハークマンNZからオランダのハークマン本社へと球根を送って、オランダ側で調べるという方法を去年と変わらず取っているようです。これは、ハークマンNZの出資者の一人であるグレイム氏が言っていたことですが、やはりオランダのハークマン本社からある程度独立した動きを取れるようにしたいようです。業務の効率化を考えたらもちろんその方が良いでしょう。

 そして品種構成についてですが、上記の中からバレリーナとカナスタが日本向けの品種から外れることになりそうです。また、ハークマン側の希望としては、クリスマスドリームの数を徐々に減らしていき、代替品種としてミストレスを増やしていきたいようです(ハークマンNZにとっての主要な取引相手はアメリカであり、そこでの需要を重視せざるを得ません。色や花型の違いは抜きにして、ミストレスの方が、丈が伸びやすく作りやすい品種であるという評価のようです)。
 日本向けに、ロココ、プリンセス・イレーネ、プリティウーマンなども来年から隔離免除品種としての登録を目指すようで(既にアメリカなどには輸出されています)、それ以外にもスーパー・パーロットなどの新品種も導入していきたいとのことです。

総 評

 既に多くの切り花生産者の方々は「南半球だから」ではなく、「NZ産のどこどこだから、CH産のこの生産者だから」という視点のもと栽培計画を立てていらっしゃると思います。ニュージーランドもチリも北から南まで各産地の気象条件、土壌等はもちろん様々です(実はチリはまだ視察に行ったことがありません。近いうちに行けたらなと思います)。
 今回視察して回った中で、フレッターの新品種がニュージーランドでもネイピアとラカイアで作られ始め、それらのリン片養成も後に控えていることが確認できました。チリ産で色々起こった品種がニュージーランド産だとどうなるのか、どの品種がどのような条件で育てられればいい仕事をするのか、つまり「この品種はニュージーランド産ならこういう性格で、チリ産ならああいう性格」という見極めが必要になります。
 ただ、球根瀬産者側のやや急激とも見て取れる品種導入の仕方が気になります。いきなりカリビアンの1ha、大量のリン片繁殖用圃場のマーロンなどを見たとき「思い切ったなあ」とふと感じてしまいました。適当と思われる量を適当と思われるペースで生産者が導入していけるようにするため、各方面での情報を随時球根生産者側へ伝え、今後の動向を見極めてもらうように仕向けるということが当然ながら必要です。オランダの球根生産者に対して近年オランダ輸出業者が行っていることと同じことだな、思います。

 チューリップに関しては、ニュージーランドから日本に向けての供給体制については、やはり日本は大きな取引相手ではない、他の国の需要に即した品種が中心となってくるということを考えなければならないようです。将来的にはドリームをやめて、そのかわりにミストレスを取り扱っていきたい、というのはそのわかりやすい一例だと思います。
 日本ではニュージーランド産のチューリップというのは使える時期や必要とされる数量などは限られてくるので、どの品種をどの時期に使えばニュージーランド産球根としての有利性を十分生かせるかというのが重要になってきます。それを踏まえた上で、取引相手として決して大きくはない日本の立ち位置もありますが、ハークマンへの品種構成に対して意見を取り入れてもらえていければと思います。

写真で見るニュージーランドの球根

アイランドバブルス(Island Bulbs)社


カリビアン

サンタンダー


シベリア


ソルボンヌ


ベラドンナ

リアルト

圃場全景

リン片圃場用風車


バンザンテン(Vanzanten)社


アクティバ

カサブランカ
(1年栽培)


カサブランカ
(2年栽培)


カプレット


コンスタンタ

サンナ

シェイラ

ジャスティナ

ダズル

ティアラ

ボゴタ

マルコポーロ

ロイヤルトリニティー

圃場全景


バッカー(Bakker)社


カルーソ

シベリア


ソルボンヌ


ソルボンヌ


マーロン

圃場全景
   


サウザンフローラ(Southern Flora)社


アケミ

カサブランカ
(2年栽培)


シベリア(2年栽培)


トロピックダイアモンド


マルコポーロ

圃場全景
   


ハークマン社


イエローフライト

イルデフランス-1


イルデフランス-2


カナスタ


リーンファンダマーク