(304) モンゴル日記(30)

モンゴル日記

【月と母と童謡と】

 これはホテルの部屋から撮影したもので、現地時間で午後10時半ころ。遅い夕食を済まし、ホテルに戻ってきたところだった。少し飲んだが、酩酊というほどではない。今度は気分を変えて、部屋の冷蔵庫から缶ビールを取り出し、月を肴にして飲みはじめた。いい満月だった。

 チビリチビリやり始めた。さまざまな事が頭の中を去来し、飛び交う。だいたい、こうして醸し出される時間は嫌いではない。まして異境の地なのだ。ただこの時は、3月に亡くなった実母のことを思い浮かべた。

 以前にも書いたが、母はもともと新潟県人ではなく、伊豆で生まれ育った女性だった。気丈でネアカ、末っ子だった筆者には甘かった。

 その母は晩年、養護施設にお世話になっていた。それが、2月のモンゴル行きから戻ってまもなく、医者から入院を勧められ、実家の家族もそれに従った。その際、医者からは既にそれなりのことを告げられていた。

 入院後はできるだけ時間を作り、母の顔を見に行った。すでに半ば意識がなかったが、こちらが語りかけると、かすかに反応することもあった。ある時、何気なく枕もとで母の大好きだった童謡を歌った。「桃太郎」,「一寸法師」など、歌詞は不完全だったが、続けた。すると 驚いたことに、母は閉じていた両目を数秒、わずかに開けた。そうして母の痩せた手を握っていた筆者の手を、強くはないが握り返してきた。「ああ 母さん、分かるんだね。道夫だよ、道夫!」

 その3日後、母は94歳の生涯を閉じた。

日々好日、日々感謝・・・本当にありがとう、母さん。 (K.M)