(351) ある夜明け前の印象

 早朝 玄関の戸を開けたら、ひんやりした空気が入ってきた。外はまだうす暗く、遠くからかすかに車の音が聞こえてくる。けれど、このあたりは静寂に満ちて風もない。気温は5度。空にはオリオン座らしき星座がまだあった。目を転じると、向かいのお宅の見なれたケヤキが、いつもと違う姿で立っている。すでに落葉が始まっていたが、うす明かりにシルエットで浮かんでいた。

 そうして 一時的にだが、風景はいつもとは違う様子を見せてきた。11月はじめ、5時半を過ぎた20分ほどのことである。無着色の世界から、色彩の付いた世界に微妙に変わっていく。

 こうした雰囲気は一年に数回 味わえるかどうか。それほど上質な風景であり、時間だった。こんな風に、ふだん何気なく目にしている風景が、ある時まったく違って見えるときがある。

 正直に言えば、似たような感覚を女性に対しても抱くことがある。身近にいる女性がある時、それまで見せたことがなかったような美しい表情やしぐさを示す。あるいは、ふだんと違った輝きを放つ。そんな風に感じさせられることが、たまにある。

 ところで 結局この日は、日暮れまでまったく雲が現れず、一日中 青空が広がっていた。当地で今どき、こんな空模様はめったにないだろう。そして この日は、群れ飛ぶ白鳥をこの秋はじめて目にした日でもあった。

良い朝を迎えられるだけでもありがたい。日々好朝、日々感謝。 (K.M)