先日の夕方、変わった雲が東の空にいっとき現れた。左右に伸びたこの雲をじーっと見つめていたら、ある女性とその腕の記憶が蘇ってきた。
活動的だった彼女は、学生時代いろんな事にチャレンジした。探検部に所属し、洞窟調査に加わったこともある。また、ときどき単身で海外にも出かけた。大柄な美人だったので、旅先で難に会わないよう心密かに願ったものだ。水泳が好きで、商社に勤め出してからも、時間を見つけてはスイミングスクールに通っていた。
その彼女が突然、病に襲われた。けれど、それに立ち向かう彼女の意思は強かった。「きっと治して見せるわ」。そして 、半年ほどの闘病生活を経て、見事に回復した。その能力を高く評価していた会社が復職を願ったが、彼女はあっさり辞めてしまった。
「病み上がりの女を見たかったら、来てもいいわよ」その言葉に挑発され、再び彼女がプールで泳ぐ日、赤いバラの花束を持ってスイミングスクールを訪ねた。そこで 久しぶりに、その明るい表情とやせた水着姿を目にした。
「・・・色気より痛々しさを感じてしまうねェ・・・」「しょうがないわ。心も体も、よけいなものは全部そぎ落としたんだもの。必要なものまで失くしたかも知れないけど・・・」彼女はさらりと言った。けれど、二の腕の筋肉がげっそり落ちたとはいえ、かつて絡め合ったこともある、あの長くて上品な腕の美しさは残っていた。
しかし、この時が最後となった。病気が再発し、彼女はその年のうちに逝ってしまった。
若い頃には甘くて苦くて切ない思い出もあって 日々好日、日々感謝。 (E.O)
