(63) 月と稲田とビニールハウス

月と稲田とビニールハウス

 これは最近 撮影した写真の中でも気に入った1枚である。もし俳句を嗜んでいれば、一句 詠めるかと思えるような素晴らしい夜明け前だった。

 実を言うと、これは5月半ばの風景である。田植えから2週間ほど経ち、稲もしっかり根づいたが、まだ か細い。田には水がたっぷり張られ、水面が広かった。そこに映った月とビニールハウスである。その立ち並ぶハウスには主にアザレアが入っている。秋出荷向けで冷蔵前のものである。田んぼと鉢花栽培のビニールハウスが共存する風景は、この地域の農業の縮図である。

 時刻は朝の4時過ぎ。月齢は約16日で、ほぼ満月を保っていた。皓皓とした月明かりが、あたり一面を照らしている。何やら狼男みたいだが、その怪しげな月光に誘い出されたように、起きてすぐ動き出した。この時こそシャッターチャンス!と思い、自転車にまたがり撮影の障害物がない田んぼの方に向かった。 

 月明かりの世界がまもなく陽光の世界に入れ変わろうとするこの時間帯。大気は清浄な色と香りを漂わす。まだ鳥たちも騒ぎ出さず、静寂に包まれている。それに全く無風であった。この独特な時間と空間が自分のために現出したようにも感じる。心地よい、それでいて不思議な感覚・・・。

 ・・・それから約1ヶ半月後、写真の稲もこのところ大株に生長し、その茎もだいぶ太くなってきた。草丈も40~50cmに達している。もう稲と稲のすき間が見えなくなってきた。

日々好日、日々感謝、稲にも感謝。 (E.O)

 

(48) 月に松

月と松

 やっと、まともな月らしい写真が撮れた。満月に近い美しい月だった。

 これまでお月様の写真は数回載せた。しかし、月が小さ過ぎたり、水面に映った月だったが画像が崩れていたりとか。いずれも説明がなければ分かりづらかった。狙いは悪くはなかったのだが、ツキが無かった・・・などとは言わない。ただ単に、カメラと腕のレベルが低かっただけなのだろう。 

 ところが、今回はそんな心配をしなくても、見事な月がカメラにおさまった。きっとタイミングが良かったのだろう。まともに写った味わい深い一枚である。

 この時の月はしばし見上げていると、まさに絵にしたいような、心が吸い込まれるような月だった。こうした味わいを画趣と言うのだろうか。

 ところで こんな風にして、月をじっくりと眺める事など何十年もなかった。正直言うと、きっかけはこのブログの表題を『花鳥風月・・・人』としたからだ。この中に”月”も入っているので、たまには取り上げなければならないと考えたからだ。

 けれど、これが結果的にありがたかった。たまに お月様を拝むのは良いものだ。満月,半月,三日月・・・新潟の月,ハバロフスクの月,ウランバートルの月・・・。今風ならばバードウォッチングならぬ“ムーンウォッチング”と表現すればよいのかもしれない。しかし、あえて“月見”という言葉を用いて、それをお薦めしたい。月を眺めていると心が落ち着く。とくに満月を見つめていると、心がまあるくなって来る。

 「月光の つきぬけてくる 樹の匂い」   (桂 信子) 

月々好月、月々感謝。 (E.O)

(43) 走る犬

走る猫

 闇のなかで立ち上がり、右方向に走る犬の姿である。マラソンでもしているのだろうか。

 そう言われれば、そう見えなくもない。西洋の画家が描いたもので、こんな風な絵画かエッチングがあったような気もする。 

 実はこれ、夜の田んぼの水面に映った三日月・・・のはずだった。ところが、水面にさざ波が立ってきたところで撮影してしまったもので、こんな写真になってしまった。悲しいかな、やはりデジカメの操作もろくに知らない素人カメラマンの腕である。

 田は薄暗かったけれど、田植えが終わったばかりで、早苗が整然と植わっていた。その水面に映った三日月には、しみじみとした風情があった。悪くない写真が撮れるのではないか。いいシャッターチャンスだ!・・・と思った。ところが、にわかに強風である。風は撮影する前からなのだが、急に強まった。しばらく静まるのを待っていたのだが、いつまで経ってもおさまらない。かえって大風になってきた。

 しょうがない。お月様が犬になってしまい、望んでいたような映像ではない。しかし、これはこれで面白みや詩情が多少は感じられるんではないかなァ。

今夜も 日々好日、日々感謝。 (E.O)

(26) 月のアムール川-ハバロフスクで(その②)

月浮かぶアムール川-ハバロフスクで

 アムール川の上にかかった半月・・・昨年9月の写真である。

 異国の地で月を眺めるのも悪くはない。目の前には雄大な川の流れがあり、遠い対岸には中国領の低い山並みが望める。少し不思議な時間と空間の感覚に包まれた。

 アムール川は大河である。支流を含めた全長は世界で8番目という。ところで、ハバロフスクの人々はこのアムール川とうまく付き合っている。川を様々に利用すると同時に、川に親しんでもいる。舟運が発達し、人や物資を積んだ船が行き来する。ちょっと驚いたのだが、水中翼船も疾走する。また所々に船着き場があり、水上バスの船が通勤客を乗せて行く。

 一方、ハバロフスク市民はアムール川を楽しんでもいる。川沿いには園路が整備され、そこを多くの人々が散歩する。また、寒くない時期には泳ぎを含め、水遊びする人も多い。そうした人たちを当てにして、川岸には簡易レストランのテントが連なる。また、釣り人も少なくない。

 けれど、このアムール川が2005年に大きな汚染に見舞われた。かの国で起きた化学工場の爆発事故で、アムール川上流部(松花江)に有毒化合物が流れ出したのだ。そして、下流地域に深刻な影響をもたらした。それが原因で、現在も釣った魚は食べられないという。どういう事情であれ、かの国の環境意識には大きな疑問を抱かざるを得ない。(※と、ここまでの文章は3月11日以前に既に書き終わっていたのだが・・・。)

 しかし翻って3月11日以降、わが国で環境意識について、こんな風に割り切って語れなくなった。なぜなら、福島第一原発の現状が報道されるたびに、深刻度が比べ物にならないくらい環境への悪影響を考えざるを得ないからだ。

「日々好日・日々感謝」と、とても言えない時がまだまだ続くようだ・・・。  (E.O) 

(14) 五重塔と昼の月  (京都で-③)

五重塔と昼の月

 京都では東寺も訪ねた。学生時代この近所に友人のアパートがあり、時々そことわが下宿とを行き来した。その途中、境内に“弘法さん”(縁日)がたっている時には、何度か立ち寄ったことがある。それで詳しい由来も知らずに、東寺には庶民的なお寺さんというイメージを抱いていた。しかし・・・恥ずかしながら今回、たいへん由緒正しい名刹であることを認識した。 

 東寺の創建は平安京の建設時にまでさかのぼり、「教王護国寺」という正式名称を持ち、弘法大師と縁が深い。国宝や貴重な文化財も多くあり、今や国史跡指定だけでなく“世界遺産”にも登録されている。 その五重塔は国宝で、木造の塔では日本で一番高いという。

 訪ねたのがたまたま特別公開の期間中で、その五重塔の一階(初層)内部が見学できた。そこに足を踏み入れる前、壮麗な五層の屋根をしばし見上げていたら、たまたま真昼のお月様に気づいた。屋根の「相輪(そうりん)」も姿がいい。(相輪は屋根の上のアンテナのように見える、仏教的な意味を持つ構造物。)そして、上弦の月と塔とがほど良い位置にあった。そこでシャッターを押した。

 ところで五重塔の初層内部には、立派な如来様と菩薩様が何体か安置されている。また柱や壁や天井などには、色が褪せてはいるものの龍や蓮などが描かれている。かつては極彩色が施され、さぞ美しかったことだろう。 多くは述べないが、金堂(国宝)や講堂(重文)にも心引かれる素晴らしい仏像がおられる。JR京都駅から歩いて行ける場所なので、ぜひ寄られることをお薦めする。

日々好日、日々感謝。  (E.O)

(11) ある日の明け方の空

ある朝の月と金星

 寒いけれど、風もない穏やかな明け方。まだ外は薄暗いが、雪は降っていない。雲が少なく、空は冴えているようだ。 ウォーキングの身づくろいを整え、さあ出発しようと玄関を飛び出した。そのとたん、目に入ってきたのはひときわ輝く星と、ほぼその真下の月である。空の上下にきれいに配置された”明けの明星”と三日月が、屋根の向うに浮かんでいるではないか。 あわてて部屋に戻り、カメラを持って来る。そして、2度シャッターを押した。こんな光景は子供の頃以来、見たことがないような気がする。デジャヴュだろうか。

 その空の景色はあくまでも清らかで、神秘的ですらあった。ふだんはじっくり眺めることのない明け方の空だったが、この時ばかりは特別だった。平成23年元旦、午前6時37分のことであった。

日々好日、日々感謝。  (E.O)

(6) シダレザクラの実?!

しだれ桜と月|シダレザクラの実?!

不思議なのだが、シダレザクラの枝に丸くて白い実がなっていた

 そんな事ないよな・・・シダレザクラに実が付くなんて?この写真、疑いを抱きながらも、最初のうちだけはこの説明でも信じてもらえるかもしれない。しかし、これはもちろん白い実などではなく、お月様である。カメラのいたずらというか、撮影技術の未熟というか、偶然こんな写真が出来上がった。ただ単に月だけを写すというのでは、それこそ月並みなので、少しは風情を感じさせるような構図を考えた。それで、組み合わせとしては月とシダレザクラに決めた。うーん、これは良いかもしれない。  しかし、撮影は暗くなってからでなければならないし、適当なシダレザクラが植わっている場所も近くには無い。だいたい冬の新潟では太陽も月も拝める日がぐっと少なくなるし・・・。  けれど、19日の晩にそうした条件がほぼ揃った。風もほとんど無い。月齢もほど良い。

 そこでカメラを携えて撮影場所に出かけた。しかし、こちらはカメラの素人。いざ撮影しようとすると、オートで何度試しても月だけは写るが枝が写らない、うーん・・・苦労したあげく結局、強制フラッシュをたき、焦点を枝に合わせたら何とか写真になった。他にも太い枝と月を写したものもあったが、この1枚に妙に惹かれた。
日々好日、日々感謝。 (E.O)