(210) 初夏のモンゴル⑭

モンキャンプ地名月

【月とトール川と・・・】

 満月に近い月が夜空に浮かび、それを映した川面が小さく波立ちながら、ほのかに白く光っていた。油絵のような風景だ った。詩心を持ち合わせていれば・・・と、また自らの才能の乏しさを悔やんだ。

 川音が聞こえ、幻想的な雰囲気すら漂っていた。ウオッカが少しまわり始めたが 、まだ足もとは危なくなかった。そのうち妄想が始まった・・・かぐや姫はきっとこんな妖しいほどの月夜に帰っ て行ったのだろう。それにしても、月への帰り土産は何にしたのだろう。コシヒカリだったろうか。・・・小学校 の時、お世話になったカワグチ先生は今もご健在だろうか。やはり独身を通されたのだろうか。・・・頭の中を詩心とは全くかけ離れた、とんでもない想像と記憶が駆け巡る。

 そんな時「カタオカサン!」と叫ぶ声が聞こえた。D社長である。発音しやすいのか、最近は筆者の名前をミスタ ーカタオカではなく、こう呼んでくれる。さて何の用事だろう?また、双眼鏡を貸してくれるのかな。実はD社長、 旅先にはよく双眼鏡を持ってくる。それで月や星を眺めるのが好きなのだ。自分で覗いた後は、たいてい筆者にその双眼鏡を貸してくれる。今回もその通りだった。

  しだいに星星があちこちで輝いてきた。一番星、二番星と数えていったが、十番星くらいでやめた。ところで、よくモンゴルでは星空が美しいと言われる。けれど、澄んだ空をもつこの国では月の姿もそれに劣らず美しい。

眠気がさしてきた。いびき魔のB氏より早く、テントで寝つかねば。日々・・・省略。(E.O)